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コミュニケーション・ディベート

コミュニケーション・ディベート

2008年より「コミュニケーション・ディベート」という取り組みを行ってきました。
生徒と教員と(ときどき)ゲストが「対話」をする取り組みです。
この取り組みは,生徒の主体的な学びを促し,生徒だけでなくすべての参加者の学びを深化させる,(本当の)アクティブラーニングだと思います。

学習クラブ「コミュニケーション・ディベート」

「コミュニケーション・ディベート」は放課後に行われる自由選択講座であり、年に15回程度開講されます。時間は1回の講座が60分間ですが、議論が盛り上がると延長される場合も多々あります。この講座の目的は、議論に勝敗をつけること、相手を論破する技術を獲得することではなく、答えの出ないようなテーマについて、コミュニケーション(=語り合い)を通じて個々の参加者が意識を深めていくことにあります。
2012年からは、日出学園の軽井沢山荘を利用して夏休みに2泊3日の「合宿」も行っています。また、明治大学や早稲田大学に出かけて大学生・大学院生や社会人と、さらにはテーマについての専門知識を持った方を日出学園にお招きして、この講座を行うようにもなりました。

研究授業

ディベート合宿

ディベート江戸川区

コミュニケーション・ディベートのテーマ例

実際に行われたテーマを一部紹介します。

  • 死ぬまでに成し遂げたいこと・余命半年の宣告を受けたら
  • 「こころ」って何?
  • 自分らしさって大事ですか?
  • 大人って尊敬できますか?
  • ウソをつかないことは本当に正しいか
  • 「恋愛」と「結婚」
  • 日本人はなぜ数学が嫌い?
  • 「最大多数の最大幸福」を考える
  • 「二次元」が好きじゃダメですか?

外部とのコラボレーション(ブログリンク)

コミュニケーション・ディベートでは,大学や他の高校等へ出かけてディスカッションすることもあります。
また,テーマに応じてその分野の専門知識を持った方をゲストにお呼びすることもあります。


さらに,コミュニケーション・ディベートには,大学生や社会人の卒業生も参加しています。
日出学園軽井沢山荘での夏の「合宿」にも多くの卒業生が参加しています。

コンクール受賞実績

夏の合宿では、参加した生徒がそれぞれテーマを設定し、それについて「ディベート」をして、最終的に文章にまとめて大学の論文コンクール等に応募します。
以下は,コミュニケーション・ディベート参加メンバーによるコンクール受賞の一部です。

  • 慶應義塾大学 小泉信三賞全国高校生小論文コンテスト 最終選考
  • 明治大学 読書感想文コンクール 優秀賞
  • 京都学園大学 高校生論文コンテスト 佳作
  • 京都学園大学 高校生論文コンテスト 最優秀賞
  • 映画評論大賞 最終選考
  • 千葉県統計グラフコンクール パソコン統計グラフの部 千葉県教育長賞
  • 慶應義塾大学 小泉信三賞全国高校生小論文コンテスト 小泉信三賞(最優秀賞)
  • はっぴーコメント付き(単体)
  • JICA 国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト 千葉OB会会長賞

表彰

高校2年選択授業「総合的な学習の時間」

2017年度から、高校2年生の選択者を対象に週2回「総合的な学習の時間」(総合)の授業が始まりました。 授業の内容は、学習クラブ「コミュニケーション・ディベート」と同様で、 ディスカッションが中心ですが、ディスカッションのテーマに関連した映像を見たりもしています。

年間スケジュール(2017年)

1学期
第1,2回   ビブリオバトルによる本の紹介
第3回     映像「愛してるよカズ」
第4,5回   第1回テーマディベート:やりがい搾取とブラック企業
第6回     映像「NHKプロフェッショナル・佐藤直樹」
第7,8回   第2回テーマディベート:「大人」って何?
第9,10回   第3回テーマディベート:死に方について
第11,12回  映像「死ぬまでにしたい10のこと」
第13,14回  第4回テーマディベート:男と女どちらが得ですか?
第15,16回  第5回テーマディベート:世界を救うのは「愛」か「金」か
第17,18回  第6回テーマディベート:独りぼっちはダメですか?

2学期
第19回    競技ディベート準備
第20回    競技ディベート:死刑制度の是非
第21,22回  第7回テーマディベート:ポストシンギュラリティで学ぶべきことは何か?
第23,24回  第8回テーマディベート:あなたは結婚したいですか?
第25~27回  映像「この世界の片隅で」
第28,29回  第9回テーマディベート:人は「 見た目」か「性格」か?
第30,31回  第10回テーマディベート:「クローン」についてどう思う?
第32,33回  映像「わたしを離さないで」
第34,35回  第11回テーマディベート:「教養」ってなんだ?
第36,37回  第12回テーマディベート:「育休」から考える「仕事」と「家庭」の両立

3学期
第38,39回  第13回テーマディベート:SNS の使用について
第40,41回  第14回テーマディベート:あなたならどの候補に一票を投じますか?
                        ~東京オリンピックキャラクター~
第42,43回  第15回テーマディベート:「機会の体」をほしいですか?
第44~46回  映像「銀河鉄道999」

小論文コンクール受賞原稿

慶應義塾大学 小泉信三賞全国高校生小論文コンテスト 小泉信三賞(最優秀賞)

バレリーナとオタクの「熱中エンジン」

第1章 熱中できることの素晴らしさ
 
熱中できること。それはとても幸せなことなのかもしれない。小学館女性インサイト研究所の調査結果(注1)によれば、20~40代の女子の約7割が「熱中しているものがある」という。当研究所では、熱中するものを持ち、メリハリのある人生を謳歌する女子を「熱中女子」と名付けたそうだが、「非・熱中女子」に比べて仕事の充実感や子育ての満足度も高く、そして何より幸福度が高いという。本調査結果は、裏を返せば約3割の女子が熱中するものを持たないわけだ。別の調査結果(注2)によれば、高校2年生の51%は「熱中するものがない」と回答している。そしてその「熱中するものがない」と回答した割合は、小学生より中学生の方が高く、さらに高校生になるにつれて高くなっている。熱中したい。その思いを多くの者が抱きつつも、その望みを叶えられないこともまた現実なのだ。
 
私は3歳からバレエに熱中し、今年で15年目を迎えた。人はなぜ熱中するのか。その熱中する仕組みを、自分自身の体験も参考に、バレリーナとオタクを比較することで解明しようと思う。バレリーナは幼少時代から過酷な訓練に耐え、生活のすべての時間をバレエに捧げている。音楽、映像、舞台鑑賞ふくめてバレエとともに一日が過ぎていく。熱中という意味では一種のオタクである。そして同様にオタクもまた、日々、熱中の中で生きている。熱中の対象はアイドル、アニメ、ゲームおよび鉄道など様々だが、情報収集力や行動力一つとってみても、常人とはかけ離れた熱中力だ。
 
中学2年生の時、友人から「真里奈はバレエオタクだね」と言われたことを思い出した。私自身がオタクと言われるなど思いもよらなかったが、第三者から見たらオタクに映ったことが興味深い。きっと友人は「熱中してるね」というニュアンスだったのだろう。その当時、オタクと言われた私の率直な感想は「心外」だった。オタクと言えば、服装がダサい、メガネ、暗い、秋葉原といったネガティブな印象だったからだ。印象というより偏見に近かったのかもしれない。本稿を執筆するにあたり、あらためてオタクの定義を探してみたが、はっきりとした定義は未だないらしいものの、「おたく」とひらがな表記していた時代から「オタク」表記に移り変わり、オタクに関わる市場規模も拡大し、日本の文化として世間の見方も変化してきているらしい。特に日本のアニメは海外でも人気があり、オタクに関して旧態依然とした偏見を持つことは、グローバル時代の今となっては取り残されてしまうのかもしれない。ロシアの女子フィギュアスケート、エフゲニア・メドベージェワ選手が、日本のスケートリンクで見せた美少女戦士セーラームーンのコスプレ姿は印象的だった。その姿を見て、恥ずかしいと思ってしまう自分こそ恥ずかしい時代が来ているのだ。
 
本稿のスタートにあたり、ここでバレリーナの生活を、私自身の一日を参考に簡単に紹介しておこう。午後3時半に学校が終わると同時に、私はまっすぐスタジオに向かう。夕方5時から夜10時まで毎日レッスンだ。幸いにも自宅から近いので夜10時半には帰宅できるが、同じバレエ仲間の中には電車で1時間かけて通っている者もいる。地方ではバレエ教室も少ないため、1時間に数本しかない電車を乗り継ぎ、数時間かけて通うケースもあると言う。私の場合、レッスンの休みは週1日だが、その休日はバレエ関連のイベントも多いため、結局、1週間ずっとバレエ漬けの毎日だ。オタクの生活も同様らしい。オタクの生活を紹介した文献(注3)から垣間見える一日は多忙だ。多忙の大半は、情報収集と情報交換に費やされている。情報交換という言葉は一見すると社交的な表現だが、その交友範囲は閉鎖的だ。情報交換は主に自分の部屋のパソコンを使ってネット上で繰り広げられる。オタク専用サイト、コミュニティで交わされる会話や持ちネタの交換だ。閉鎖的な世界であるからこそ、ディープな情報をやりとりするのに最適な環境なのだろう。
 
第1章は本稿の導入として、バレリーナとオタクを簡単に紹介しながら話を進めた。バレリーナの自分にとって、まさかオタクと比較することになるとは数年前には考えられなかったが、今回ばかりは「熱中」というキーワードを介して、私とオタクは同志であると認めよう。続く第2章では、A子とB君という具体的な二人のモデルケースを持ち出し、自動車のエンジンにたとえながら熱中構造を解明してみる。バレリーナとオタクがそれほどまでに熱中するのはなぜなのか、熱中する仕組みは何なのかを整理する。そして第3章では、第2章の具体例を一般化することを試みた。いわば熱中エンジンの設計図づくりだ。最後の第4章では、今回の分析結果を教育、芸術、ビジネスなどの分野で応用できないかを考察することとする。さらに、熱中エンジンを社会資本として捉えた場合の日本の競争力について考えてみたい。なお、バレエをやっている私たちにとっては「バレエダンサー」と呼ぶのが通例だが、世の中一般的にはバレリーナがなじんでいるので、本稿でもバレリーナを使用することとする。バレリーナ(ballerina)はイタリア語であり、女性のバレエダンサーの一般的な呼称だ。
 
第2章 A子とB君のエンジン構造
 
 本稿のねらいは、バレリーナとオタクを対比させつつ熱中構造を明らかにし、そのプロセスを広く活用できないかを考えるものである。論を進めるにあたり、漠然と整理を始めては焦点がぶれる可能性があるため、自動車のエンジンにたとえながら、人が熱中する構造をパーツに分解しつつ整理してみたい。エンジンにたとえるのは、熱中行動そのものが、人を前へ前へと動かす推進力と考えるからだ。人の熱中行動は、心に抱いた熱い思いを外に向けて行動に移す推進力であり、自動車のエンジン同様にパワーを産み出す原動力だ。同時にエンジンには「欠かせない部品」や「中心的な機能」という意味もある。例えばWEB上では「検索エンジン」という使われ方がされたり、コピー機やプリンターの中心的な重要部品を「エンジン」と呼んでいたりする。バレリーナとオタクが、なぜそこまで熱中するのか、なぜ熱中できるのかを解明するにあたり、その重要となる部品を抜き出し、その構造がどうなっているのか、どのような仕組みで動いているのかを分析することがテーマであるから、エンジンを参考にアプローチするのは面白そうだ。
 
自動車のエンジン構造は、順序は逆かもしれないが、(1)最終的に車輪を回す(自動車を前へ進ませる)、そのために(2)燃料を効率的に燃焼させる、そして(3)燃料はガソリン、という具合に3つのプロセスに分解できる。同様に考えて、バレリーナとオタクが熱中する仕組みも、(1)最終ゴールは何なのか、(2)そのゴールに向かってどのような努力をするのか、そして(3)がんばりの燃料は何か、という3つのプロセスに分解して考えてみよう。
 
 さらに、バレリーナとオタクの人物像をできるだけ特定し、具体的にイメージしてみたいと思う。新商品を開発する際、ペルソナマーケティングという手法があるが、今回はその転用だ。架空の消費者(ペルソナ)を設定し、その架空の消費者が買いたいと思う商品をとことん追求していく手法であり、たった一人に向けてつくられた商品が、実は多くの人に支持される商品になり得るという考え方だが、本手法を今回のケースに応用してみようと思う。具体的にバレリーナのA子とオタクのB君を次のように設定し、先に掲げたエンジンの(1)~(3)の3つのプロセスにつながるように整理を始めてみたい。
 
 バレリーナの具体例は、コンクールの良きライバルのA子だ。A子へのインタビューをもとにモデル化したが、個人が特定されることのないよう本論に影響がない部分は変更してある。高校3年生のA子は、小学2年生からバレエ教室に通い始めた。バレエの海外留学の経験もあり、将来はバレエ団で活躍したいと考えている。近い目標は自分が通うバレエ教室の発表会での成功だ。主役を演じるA子は、観客を感動させる踊りをしたいと語っていた。高校卒業後はバレエ団に入団し、憧れの男性ダンサーと夢の共演を果たし、今まで応援してくれた両親のため、恩師のため、観客を魅了させる舞台を作りたいと熱く語っていた。その夢に向かって、日々のレッスンは努力の積み重ねだ。毎日欠かさぬ基礎レッスンとストレッチ、仲間とお互いに表現を確認し合うなど、ライバルでもあるメンバーとの練習が繰り返される。厳しいレッスンに耐えられるのは、もちろん発表会の舞台を成功させたいという強い信念と、日々の苦しいレッスンの中にも、昨日までできなかった技が上手にできたときの達成感、そして指導者からの厳しいながらもやさしい指導だという。
 
 オタクの具体例は、小学校から同じ学校で学ぶB君だ(同様に一部変更してある)。熱中の対象はアニメであり、萌え系の女性主人公の美しさに惹かれているという。現実世界の女子には興味がなく、登場する主人公は理想の女性そのものだと語っていた。学校内にも同じアニメで盛り上がる友人はいるが、情報交換はもっぱらSNSを通じて、お互いに収集したコレクションを自慢しあうのだと言う。自分がオタクであることを隠すことなく、見た目は爽やか男子であるところが憎らしい。学校の休み時間にはキャラクターグッズを周囲に見せつつ、どことなく「かまってほしい」様子を見せている。オタクイベントに参加した際、ツイッターで実況中継するのが常らしく、自分のコメントに反応があろうものなら大喜びで「レス」するのだそうだ。コレクションの元手となる資金は、キャラクターグッズの売買で捻出することもあるようで、バレリーナの私たちとは違い、自分で稼ぎ出すその経済力には頼もしい一面もある。
 
第3章 熱中エンジンの設計図
 
 第2章では、実在する2人の高校生へのインタビューをもとに、バレリーナのA子とオタクのB君という具体例を設定し、両者の行動特性を列挙した。本第3章では、A子とB君の共通点と相違点を比較しながら、熱中エンジンの一般化を試みる。共通点と相違点は、これまでの流れと同様に(1)最終ゴール、(2)最終ゴールに向けた努力、(3)努力の元となる燃料の3つのプロセスに沿って整理していく。
 
 まずは(1)最終ゴールについて、第2章の具体例を振り返りながら、両者の共通点と相違点を洗い出してみよう。バレリーナのA子にとって最終ゴールは、近く行われる発表会で成功をおさめ、観に来てくれた両親や恩師、友人に感動を与えたいというものである。オタクのB君にとっては、同じオタク仲間から一目置かれたいという欲求だ。これより「他者からの評価」という共通因子が見えてくる。他者から認めてほしいという欲求だ。しかし両者の相違点は、A子にとっては観客であるように、それはオープンなマーケット(市場)における評価だが、B君の場合はオタク仲間でありクローズなコミュニティ(集団)における評価だ。オープンな世界かクローズな世界かという違いはあるものの、両者のエンジンの最終ゴールは、他者からの評価が重要なキーワードだ。A子の場合は芸術的な無償の評価であることに対して、B君の場合は金銭価値に変換しうる評価という違いも重要かもしれない。
 
 次に(2)最終ゴールに向けた努力について、同様に振り返ってみよう。バレリーナのA子は発表会に向けたレッスンを日々繰り返しているが、発表会という場の特性から、集団性が非常に高い。バレリーナたちの一糸乱れぬ群舞がバレエの魅力でもあるから、チームでレッスンに励みながら、個人の技術は個人レッスンでカバーしていく。一方、オタクのB君の練習は(練習というイメージからはほど遠いが)、自分の部屋でパソコンやスマホによる情報収集と発信が中心だ。オタクの聖地ともいわれる秋葉原や池袋に出かけて行き、リアルな世界での情報収集もあるが、行動の大半はネット上で完結する情報収集だ。A子とB君における練習風景における共通因子は「仲間との接触」と言えるが、相違点はその接続ポイントのリアルとネットのバランスだろう。A子はリアル中心であり、ネット上での練習はほとんどない。ネットを活用した練習と言えば、Youtube等の動画配信サービスを観ながら、舞台上のふるまいのイメージトレーニングだが、練習の総量に比べるとその割合は寡少だ。逆にB君は、リアルでの活動の比重が小さい反面、大半の活動をネット上で展開している。両者ともに仲間に接触しないとエンジンは回らないが、エンジンを回す空間がリアルな場なのか、ネットなのかと違ってくる。
 
 そして(3)努力の元となる燃料については、バレリーナのA子は、新しい役がもらえることの嬉しさと励み、レッスンの積み重ねにより高難度の技ができたときの達成感、日々の両親の支援などである。自分自身で作り出す内面的な燃料と、外部環境で作り出される燃料がバランスよく混合してA子のエンジンを回す燃料となる。最終ゴールである舞台での大成功と賞賛もフィードバックされて、次回の燃料に生まれ変わる。オタクのB君の燃料は、日々の情報の発信量とクオリティであり、「いいね!」や「閲覧数」などの数量的にカウントできるものと、「好意的なコメント」などの定性的なテキスト情報だ。オタクはコレクターであり、収集することに情熱をかける特性があるが、デジタル的にカウントできるものや可視化できるものから、やる気と継続性が生まれてくるのであろう。両者ともに、日々の満足が積み重なっていくわけだが、それが可視化できるものなのか、数量的に把握できるものなのか、という点では対極にある。オタクのB君の燃料は可視化も数量化もできそうだが、バレリーナのA子の場合はできそうにない。
 
 第3章の締めくくりとして、ここまで抽出したキーワードを「設計図」として整理し、熱中エンジンを組み立ててみよう。最終ゴールのキーワードは、他社からの評価や金銭価値だった。エンジンを回転させる努力のキーワードはリアルとネット、そして集団性と個人性だ。燃料のキーワードは、可視化や数量化だ。以上より、バレリーナのA子とオタクのB君から始まったエンジンづくりは、次の設計図として一般化できるのではないか。ここまでは最終ゴールからさかのぼって整理してきたが、今度は視点を元に戻して、燃料から順に追ってみる。「見よう見まねのきっかけではじまった行動は、熱中対象を常に目に触れる場所に置くことで、行動に継続性が生まれて回転し始める。リアルもしくはネット上の場において、自分でやってみたこと、自分で発信した情報を公開することにより賛辞を得て、その賛辞が励みとなり熱中エンジンに弾みがつく。一度回り始めたエンジンは、可視化によって加速し、さらに他者の評価を取り入れながら、熱中エンジンの性能が向上していく」という具合だ。
 
ここで可視化について補足しておきたい。自分の熱中している対象が、いつも自分の目に触れることが、脳を活性化しやる気を引き出すという研究成果がある。米国ハーバード大学の卒業生を対象にした研究結果では、卒業時に自分の10年後の目標を紙に書き留めていたグループと、何もしていなかった卒業生のグループの10年後を追跡調査した結果、前者のグループの目標実現率が高かったという話も聞いたことがある。よく受験生が「慶應義塾大学に絶対合格」とデスクの前に掲示したり、野球部員が部室に「絶対に甲子園に行くぞ」と張り出す行動は、脳科学の観点では重要だという。この点では、A子もB君も、常に自分の熱中対象に触れており、ここで紹介した研究結果と同じ環境下と言えよう。興味があるから常に触れているのか、常に触れているから興味が生まれてくるのか。ニワトリが先かタマゴが先かという議論にも似ているが、脳科学の研究からは、体の実際の動作とやる気の関係性が指摘されており、やる気が出たから体を動かすわけではなく、体を動かすことによって脳に指令が行き、やる気のスイッチが入るという研究成果は非常に面白い(注4)。
 
第4章 熱中エンジンは日本が誇る社会資本
 
 熱中エンジンを活用すれば、小学生、中学・高校生の力を引き出すことができるだろう。人はそれぞれ熱中対象が異なる。熱中するベクトルの向きと大きさは人それぞれで個性的だ。しかし、ベクトルの成分を抽出し、その成分を統合できれば、大きなエネルギーが得られるはずである。若者のパワーを結集することで生産性を向上させ、競争力の高い日本をつくることができるだろう。
 
 本稿の考察は、社会的に大きく二つの方向で活用できるのではないか。一つ目は個人を対象としたものだ。個人のやる気を引き出し、熱中のエンジンを回すための活用だ。すでに紹介したいくつかの調査結果でも「熱中したい」という意識は高く、熱中の潜在市場は大きいことが想像できる。そこに熱中の燃料を補給してあげれば、熱中エンジンが回転し始める可能性が高まるはずだ。能力をいかに引き出すかというテーマは、教育、スポーツ、芸術の分野においても一大テーマだ。能力を引き出すしかけづくり、才能を引き出す研究は、過去にも多くなされてきたと思うが、本稿ではバレリーナとオタクを対比させることで、解の一つの方向性を導き出せたのではないだろうか。
 
そして二つ目は社会資本として捉えたものだ。熱中エンジンの特性を上手に活かし、その共通する部分と相違する部分を上手に組み合わせれば、社会的な大きなパワーを作り出せないだろうか。相違する部分を「違う点」と考えるのではなく「多様性」と捉えなおすことで、ポジティブに応用できるはずだ。「日本人はイノベーションを生み出しにくい」とはよく言われることだ。革新的な技術を生み出すことは、日本人は苦手であって、海外から輸入した技術を改善していくのが得意との評価もあろう。しかし、アニメにしてもアイドルにしても、熱中エンジンを備えていることは日本人の大きなパワーではないだろうか。日本人が持つ熱中資本をうまく運用して、大きく回転させることで海外に熱中対象を輸出してきたのではないか。我々日本人ひとり一人が持つ熱中エンジンが集合体として熱中資本となり、日本発の世界ブランドを多く作ってきたのだ。日本人の日本人たるコアコンピテンシーは、熱中エンジンを持っていること、国として熱中資本を持っていることなのではないか。この視点を忘れずに、オタクであっても大いに受け入れて育てていけば、日本が世界に誇る新しいブランドが、今後も多く生み出されるであろう。
 
 オタクというキーワードから始まった本稿の考察だが、バレリーナと比較することで熱中エンジンの構造解明に一歩近づけただろうか。熱中エンジンを一般化すれば、若者のパワーを引き出すことができるだろう。そして、熱中することは資本なのだ。熱中資本は日本が誇るソフトパワーになるだろう。日本のアニメそのものも素晴らしい傑作だが、日本人の熱中資本こそ、世界に誇る資本なのだろう。
 
 
<注>
注1 女性と趣味・暮らし方に関する意識調査(2014年12月実施)
注2 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どもの生活と学びに関する親子調査」(2016年7月実施)
注3 原田曜平『新・オタク経済』、朝日新書、2015年
注4 池谷裕二『やる気は脳ではなく体や環境から生まれる』、ベネッセ教育総合研究所 BERD No.13(2008年7月)
 
<参考文献>
 
・野村総合研究所『オタク市場の研究』、東洋経済新報社、2005年
・電通『「オタクが好きなもの」調査~アニメ編』、2011年
・矢野経済研究所『「オタク」市場に関する調査』、2016年
・ベルメゾン生活スタイル研究所『スタイルモニターレポートVol.3』、2005年
・公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団『AD STUDIES』Vol.34、2010年
・大塚英志、東浩紀『リアルのゆくえ』、講談社現代新書、2008年
・大塚英志『「おたく」の精神史』、朝日文庫、2007年
・東浩紀『動物化するポストモダン』、講談社現代新書、2001年
・櫻井孝昌『アニメ文化外交』、ちくま新書、2009年
・四方田犬彦『「かわいい」論』、ちくま新書、2006年
・大泉実成『オタクとは何か?』、草思社、2017年
・寺尾幸紘『オタクの心をつかめ』、SB新書、2013年