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Poem

学園広報誌「学園通信日出」に寄稿した文章を掲載します。

日出学園STEAMレンジャーが描く、学びの原色(学園通信日出Vol.38 2022.10.01)

 こんにちは。日出学園中学校・高等学校STEAM科です。STEAM科は国語科や数学科と異なり、学校に1名か2名しか在籍していない教科(美術・音楽・情報・技術・家庭・総合)の集合体で、学校によっては「技芸科」「技能科」という名称で呼ばれています。身も蓋も無い言い方をすれば「寄せ集め」の教科です。そんな私たちの日々の教育内容は、特集を見ていただくと分かる通り、全く一致していません。それではSTEAM科は、相容れない、仲の悪い教科なのでしょうか。
 コンピュータのディスプレイは、R(Red)・G(Green)・B(Blue)の3つのLEDが等間隔に敷き詰められてできています。この各LEDが異なる強さで光ることにより、人間の脳の中にさまざまな色が生まれます(赤+緑=黄など)。光の3原色による色表現は、STEAM科の関係性と似ています。
 さまざまな色は、R・G・Bの3色が独立だからこそ生まれます。情報科・技術科は問題解決・工学的な視点で作品を創作しますが、音楽科・美術科は問題発見・芸術的な視点で作品を創作します。情報科と技術科でも考え方は異なり、情報科は気楽に試行錯誤する姿勢を大切にしますが、技術科は1つひとつの作業を丁寧に行う姿勢を大切にします。
 各教科の学びは独立ですが、STEAM科の授業を受ける生徒たち同士で混ざり合い、それぞれが異なる色で、鮮やかに輝いていく。その姿こそSTEAM科が目標とするものです。一致しないことは、悪いことではありません。情報技術をテーマとしたアニメ「攻殻機動隊」には、『我々の間にチームプレイなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ』というセリフが登場します。これは少し言い過ぎかも知れませんが、私たちの在り方に近いかもしれません。左側の集合写真では武器の代わりに、各教科にまつわるアイテムを全員が装備してみました。
 私はよく、「技能教科は背中で語る」と表現します。STEAM科は教師であると同時に、皆がその道の職人です。互いの高い専門性を認め合い、尊敬しあっているからこそ、目標だけを揃えて、無理な一致は図らない。これぞ真の多様性であり、学校教育の目指す理想の一形態とも言えると考えいます。
 職人芸に興味があれば、特別教室にいる私たちに、いつでも会いに来てください。一人ひとりが、沢山の技を披露すべくお待ちしています。(STEAM科主任 武善紀之)

昭和基地からのリモート授業「南極授業」(学園通信日出Vol.36 2022.02.15)

 日出学園の皆さん、こんにちは。僕は現在、教員南極派遣プログラムの派遣教員として、第63次南極地域観測隊に同行しています。この原稿が配られる頃には、南極観測船「しらせ」に乗って、日本を目指していることでしょう。
 長時間の船旅では、揺れに翻弄されながらも毎日のように変わる外の景色を楽しみ、昭和基地に入ってからは、基地の設営支援として建築物の解体や、物資の運搬作業等に明け暮れる日々を過ごしていました。非日常がすっかり日常化してしまい、一面の雪氷や露岩にも驚かなくなりましたが、それでも「ペンギンが出た!」と無線が入ると、カメラを携えて外へ飛び出してしまうことは変わっていません。
 派遣期間の大きな目的は、南極・昭和基地と日出学園をZoomでつなぎ、2度の南極授業を行うことでした。美しく魅力的な景色の広がる南極、授業の題材自体は豊富にあります。その中で、僕は「何を」「どのように」日出学園生へ届けるか、届けたいのか。自己への問い掛けは授業前日まで続いていました。
 「南極は新しい何かを得る場所ではなく、今までの自分を振り返る場所」とは、ある南極授業登壇者の言葉です。「技術」をテーマに、試行錯誤を重ね、当日は思いのすべてをぶつけた授業が出来たと思っています。
 題材の1つとして扱った「衛星通信」の恩恵で、南極派遣中も日出学園の皆さんとは、毎日交換日記を続けることができました。また、有志生徒で構成された 「ひのぺんず」は、僕の南極授業の前に素晴らしいプレ授業を実施してくれました。快く僕を送り出してくれた教職員の皆さんには、本番の授業でも力強いサポートをいただきました。遠く14,000km離れた地で、日出学園とのつながりを、より一層強く感じることができたように思います。1時間の南極授業で、話せることは限られています。伝えたいこと、話したいこと、授業以外にもまだまだたくさんあります。時間の制約も、帰国後にはありません。自分の見聞きした南極・観測隊の様子を、じっくり皆さんと話せる日を楽しみにしています。(情報科 武善紀之)

日出学園が目指すICT School構想(学園通信日出Vol.32 2020.10.01)

 PCでイラストを描く時、塗りミスは一瞬で「元に戻」せ、また気軽にデータの「コピー」ができます。この「試行錯誤の気軽さ」こそデジタルメディア、ICTの本質であって、本来これは学校と非常に相性が良いものです。
 学校は子どもたちが正解を学ぶ場所ではなく、たくさん考え、失敗し、そして成長していく場です。詳しい人間が調べ尽くした便利な正解は、現場を一瞬だけ幸せにしますが、それは長続きしません。使う人間が試行錯誤の裏側にある"ワクワク"を感じ取れないためです。
 だからこそ、日出学園のICT構想では生徒にも教員にも試行錯誤の機会を最大限多く与えられるよう、導入を進めてきました。この成果が表れたのが、今回のコロナ禍への対応でした。
 日出学園の現場にはICTに対する真の意味での積極的姿勢があります。今回のコロナ禍では各学校や各教科がお仕着せのツールに合わせるのではなく、目の前の子どもたちを見つめて自分自身でツールを選び、工夫を凝らした授業や学級活動を展開してきました。
 学園通信「日出」の今回の特集では、この点を是非紹介したいと、例えば中高の記事では、時間割形式で各教科の魅力的な学びを追体験できる記事構成を取っています。
 小中学生へ1人1台PCを配備するGIGAスクール構想やプログラミング教育の必修化等、教育界はまさに日進月歩の勢いで進んでいます。進歩の早い世界では目先の設備や機器にとらわれると、その時点で時代遅れとなります。しかし、試行錯誤、臨機応変が当たり前の日出学園は、どんな時でも盤石です。本特集で是非、その一端を感じ取っていただければと思います。
 試行錯誤の連続がICTの真の姿ですから、本来ゴールはありません。しかし、敢えて設けるならば、日出学園はさらにこの後、「ICTが見えない学校」を目指します。「かな漢字変換」や「乗換案内システム」が、以前AIと持て囃されたことを皆さんはご存知でしょうか。技術は完全に浸透すると、水や空気のように当たり前となっていきます。
 ICTが完全に浸透し、取り立てて持て囃されることがない学校。それこそ生徒たちの試行錯誤が毎日当たり前のようにある学校であり、私たちが理想とする学び舎の在り方です。(法人企画室 ICT推進チーム リーダー 武善紀之)